秘書と野獣
9
「あいつは俺のもんだ。無駄な悪あがきはやめとけ」
ファイルを置いて出て行こうとする背中に突然そう投げつけた俺に、ゆっくりと振り返った男は少しも動揺することなく静かに俺を見据えた。
だが眼鏡の奥には燻る確かな炎が見える。
「…仰ってる意味がよくわからないのですが」
「お前ほどの人間がわからないわけがないだろ? それとも一から説明するか?」
「……」
2人の男の間に見えない火花が飛び散る。
互いに譲れない想いがあるのは同じだが、残念だがこいつの出る幕はない。
「…華さんはあなたのものじゃありませんよ」
「んなことはわかってる。それでもあいつは俺のもんだ」
「……」
傲慢な物言いに心底呆れたように、男___野上は溜め息をついた。