秘書と野獣
「おねえちゃんほどじゃなくっても、私達だって長い時間進藤さんを見てきてるんだから。おねえちゃんの一方通行なんかじゃないよ、絶対」
「莉緒、だからね…」
「進藤さんはずっと昔からおねえちゃんを見てきてる人だから。多分自分からはなかなか踏み込めないでいるだけだと思うの。だからおねえちゃんが…」
「無理だってば」
「無理って言ってたら何も始まらないじゃん!やってみなきゃわからな___」
「___だから無理だって言ってるじゃないっ!!」
悲鳴のように響いた声に一瞬だけ店内がシン…と静まりかえった。
けれど子連れが多く元々騒がしかったこともあってか、すぐにその場は何事もなかったかのように元通りの賑やかさを取り戻していく。
「……おねえちゃん?」
見たこともない様子にただ事じゃないと察知したのか、莉緒が不安そうにこちらを伺っている。私はそんな莉緒に力なく微笑むことしかできなかった。
「……ほんとに無理なんだよ、莉緒」
「無理、って…」
「結婚するの」
「…え?」
主語がないせいか意味がわからないとばかりに首を傾げる。
「…進藤社長ね、もうすぐ結婚するんだって」
「……え…?」