秘書と野獣
「…社長のことは尊敬しています。ですが会社を離れればお互いにただの一人の人間に過ぎない。俺は華さんのことで社長に遠慮するつもりはありませんから」
そうして臆することなくこの男も言いきった。
「望むところだ。いくらでも受けて立ってやるよ」
「…では失礼します」
綺麗に頭を下げた野上が背を向けて歩き出す。だがドアノブに手を掛けたところで立ち止まると、そのまま振り返ることなく、
「俺なら華さんを幸せにする自信があります」
はっきりとそう言い残して出て行った。