秘書と野獣
あぁそうだろう。
誠実なあの男なら一人の女を幸せにすることなどわけないことだ。
だがその相手はウサギではない。
ウサギが心の底から求めているのが俺である限り、あいつを幸せにできるのはこの世界に俺しかいない。
誰が相手だろうと、この立場を譲る気など毛頭無い。
「あのバカ、手なんか握らせやがって…」
出先からの帰り道、向かいの通りのカフェにいるウサギと野上を偶然見かけた。
どんな会話をしているかなど当然聞こえるはずもないが、予想通りの展開に俺は笑ってしまった。
あいつが逃げる準備を始めた何よりの証拠だと。
そのために真っ先に相談するのが野上だろうことも全て想定済みだ。
逃げようと思うなら全てを捨ててさっさと逃げてしまえばいいものを、こんな時ですら自分の責務をしっかり果たそうとするところがいかにもあいつらしい。
だがそんなあいつだからこそ俺も本気で好きになったのだ。