秘書と野獣

真剣な顔で向き合う中、おもむろに野上がウサギの手を握る。それに驚いたウサギは手を引こうとしたのだろうが、あの男は逃がさないとばかりにさらにもう一方の手も重ねて封じ込めた。

「……」

こうなることまで予想できていた。俺から逃げるくらいなら自分が幸せにしますと、あの男なら間違いなくそう言うだろうということを。

当然それに首を縦にふる女じゃないのはあいつ自身もわかった上での行動だろうが、いずれにせよそれぞれの歯車が確実に動き出したことは間違いない。
あいつはあいつなりにウサギを幸せにするために奔走することだろう。


たとえ手を握っただけだろうとも好きな女に触れられるのは許せない。
あいつに触れていいのは俺だけ。

金輪際、他の男には指一本たりとも触らせたりしない____

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