秘書と野獣
「あぅー!」
「あっ、起きちゃったみたい! ちょっと待っててくださいね!」
隣の部屋から聞こえてきた声に莉緒が慌てて立ち上がる。やがてその手に赤ん坊を抱えて戻って来ると、まだまだガキだと思っていたこいつもどこからどう見ても母親にしか見えないのだから不思議だ。
「お前もすっかり母親になったんだなぁ…」
「あはは、進藤さんちょっとおじさんくさいですよ」
「お前なー、微妙なお年頃相手に耳に痛い発言すんなよ」
「あはは! 進藤さんでもそういうこと気にするんだ? でも進藤さんもきっと近い将来お父さんになりますよ」
「……そうかもな」
「絶対そうですよ! だって今の進藤さん見てるとおねえちゃんを溺愛する未来しか想像できないんですもん。あっという間に子どもの数抜かされちゃうかも」
「人を絶倫扱いすんじゃねーよ」
「あははっ!」
でもまぁあながち否定はできねーかもな。
もちろんあいつ限定で。
…あの日、避妊もせずに何度も抱いたこともあって、もしかしたら子どもができたのではと考えていたが、あいつの様子を見る限りおそらくその可能性は限りなく低いだろう。どこかで残念な気がしなくもないが、どうせならきちんとお互いの気持ちが向かい合った状態でその時を迎えたい。