秘書と野獣


「服部さん。時間はかかりましたけど、結婚することになりました」
「おぉっ、やっとか! それはおめでとう!!」
「ありがとうございます。服部さんには昔から本当に世話になってたので。どうしても直接会って報告がしたくて」
「くぅ~っ、嬉しいこと言ってくれるねぇ~! そうかそうか、やっと決断したんだなぁ」

食事を始めて2時間程が経ち、ウサギが席を離した隙に俺は服部さんに結婚する意思を伝えた。敢えて『誰と』なんてことを言う必要はない。この俺が結婚を考えられる相手がいるのだとすれば、それはこの世に一人しか存在しないことを彼は誰よりもわかっているから。
予想通り、彼は細かいことなど何も聞かずに心から喜んでくれた。


全ての始まりは服部さんだった。
ウサギと出逢えたのも、自分の心に向き合うことができたのも、
そしてこの俺が誰かと人生を共にしたいと思えたのも。
全ては彼に出逢うことができたからこその今だ。

人生は一期一会、その言葉の重みを痛感する。

次に彼に会うときには、夫婦となった姿で。
彼と酒を酌み交わしながら、俺はこの後の俺たちを思った。

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