秘書と野獣
思えば出会った時からそうだった。
俺にとって女なんてのは追うものではなく勝手についてくるものだったというのに。俺には必要のなかったはずの秘書にするために奔走し、らしくもなくこれでもかと感情を掻き乱され、そうしてこの手に抱くまでにこれだけの年月がかかってしまった。
あいつの意志を尊重しようと待ち続けた日々はまさにお預け状態の犬同然で、世間から言われている野獣の姿など見る影もない。
ったく、全てにおいてありえないったらねぇ。
「…けど、それでもお前が欲しいんだから仕方ねーよな」
かっこ悪かろうと、みっともなかろうと、本当に欲しいものを手に入れるためにはプライドなんてくそっくらえだ。
本当に、俺をここまで変えたお前はすげぇ女だよ。
あの日、ぴょんぴょんと跳びはねる白ウサギをこの目に捉えた瞬間から。
俺の全てこそが宇佐美華という人間に捕らえられてしまっていたのだ。
「目が覚めたらすぐにお前は進藤華へと生まれ変わるんだからな」
口にした名前に際限ない幸せを感じながら、今度こそ逃がさないとばかりに小さな体を腕の中に閉じ込めた。