秘書と野獣
あれだけ頑なに家族を作ることを拒んでいた俺が。
あれだけ頑なに自分の気持ちと向き合うことを拒んでいたあいつが。
全てを認め受け入れてからというもの、こんなにも心が軽くなるのかと驚くほどに日々が充実し、満たされていた。
もっと早く何とかならなかったのかと誰もが思うかもしれないが、じれったいほどの回り道があったからこそ今がこれだけ幸せなのだろう。
というか万事うまくいってしまえば、そんな些細なことなどどうでもいいことだ。
俺たちが見つめているのは未来だけなのだから。
「いよいよ明日だな」
「…はい」
うっすらと頬を染めながらはにかむ姿に、またしてもあらぬ欲望が顔を出しそうになる。そんな俺の変化を目ざとく察知したのか、ウサギは慌てて胸の前で腕をバッテンに交差させると、
「も、もうダメですっ! 今日は閉店しましたっ!!!」
そんなことを必死に訴えて、これまた俺を爆笑の渦に包み込んだのだった。