秘書と野獣
とある会社の新社屋完成を祝うパーティに招待されたときのこと。
乾杯の後はいつものように精力的に挨拶回りに勤しんでいた。
「そろそろ何か食うか? もうだいたいは回ったし」
「そうですね。実はさっきからテーブルに並んでる料理に目が釘付けになっちゃってました」
「ははっ、お前は相変わらず色気より食い気だな」
「わわっ?! ちょっ…髪が崩れるからやめてくださいってば!」
ガハハと笑いながらわっしゃわっしゃと髪をかき混ぜる社長の手を引き剥がそうと必死に藻掻く。ふと顔を上げれば、ものすごーーく柔らかな表情で私に微笑みかける猛さんがそこにはいて____
「 華さん!! 」
そのままキスされてしまうのではないかというこっぱずかしい意識は、突然呼ばれた自分の名前によってパチンと弾け飛んだ。
「あ…」
声のする方を振り返ると、一人の男性が小走りに近づいてくるのが見える。