秘書と野獣

その後スッと彼の手が差し出された。おそらく区切りの握手ということなのだろうと理解し、迷いながらも手を出そうとしたけれど、さっきからずっと自分の手を掴んだままの大きな手がぐっとそれを押し留めてしまった。

「社長…!」

慌てて見上げたけれどやっぱり社長は前を向いたままで。
そんな私達を見ながら平澤さんはふぅっと軽く息を吐き出すと、納得したように頷きながらゆっくりと手をおろした。

「ただの挨拶のつもりでしたが…ご主人を不快にさせるのはよくありませんね。配慮が足りずに申し訳ありません」
「いえ、そのっ…」
「わかってるならそれで充分だろ。話はそれだけか?」
「し、社長?! そんな言い方…!」
「お前は黙ってろ」
「でも…!」

別に平澤さんは悪いことなどしていないのに。社長の大人げない態度に驚くと同時に、今後の仕事に支障が出やしないかと気が気じゃない。

「…思ってるよりずっと本気だったみたいですね」
「えっ?」

平澤さんが何かを呟いたけれどよく聞こえなかった。

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