秘書と野獣
「じゃあ華さん、今日はお会いできてよかったです。どうぞ末永くお幸せに」
「あ、ありがとうございます! 平澤さんもお元気で」
テンパるあまり、まるで今生の別れのような挨拶になってしまった。
そんな私にクスッと笑うと、軽く頭を下げた平澤さんは優雅な身のこなしで私達に背を向けた。
…のだけれど、数歩歩いたところで何故か立ち止まる。
そうしてゆっくり振り返ると____
「華さん、最後に2人で行ったもつ鍋のお店、最近新メニューが出て話題になってるみたいですから、また機会があれば是非ご一緒しましょう」
「___えっ?!」
「ではまた」
ニッコリと、今度こそ彼はこの場から立ち去っていく。
____口を開けたまま棒立ちしている私を残して。
「…………………ほう。2人で行った、ねぇ…」
直後、頭上から降ってきた地を這うような声に、ゾクーッと背中から震えが走った。