秘書と野獣
「よう、ウサギ。相変わらずちっこいな。ちゃんとメシ食ってんのかぁ?」
「もう、ウサギじゃなくて宇佐美ですってば! それからぽんぽんするのやめてくださいっていつも言ってるじゃないですか!」
「わりぃわりぃ。手を置くのにちょうどいい高さにあるもんだからつい、な」
「つい、じゃありませんっ!!」
「はっははは!」
ガハハと豪快に笑うその人に呆れつつも、内心私はこうして構ってもらえることが嬉しくてたまらなかった。
___そう。私はその時から既にこの人に恋をしていたのだ。
母子家庭で育った私達家族は、私が高校卒業まであと1年と迫っていたその時に母を亡くした。元々経済的に裕福とはほど遠い生活をしていたこともあり、母の死は私の進むべき道を決定づけることとなった。
幸運なことに、生前私達家族によくしてくれていたとある小さな会社の社長さんが、よかったらうちで働いてみないかと声をかけてくれた。このことは今でも感謝しきれないほどに心から感謝している。もしあの時救いの手を差し伸べてくれなかったら、今の私達の生活は全く違ったものになっていただろう。
そしてあの導きがあったからこそ、私は進藤社長に出会うことができたのだ。