秘書と野獣
「ごめんなさい…。でも、本当に平澤さんは紳士的な方でした。その日会ったのも区切りをつけるためで…。私のことは何と言ってもらっても構いません。でも他の人のことまで悪く言うのはやめてください」
…言った。
言ってしまった。
今彼はどんな顔をしてるのだろうか。
……怖くて見られない。
その後永遠とも思える沈黙が流れる。
実際にはほんの数秒程度だったのかもしれないけど、私には地獄へと突き落とされるのと同じほど苦痛で、徐々に体が小刻みに震えてくるのがわかった。
真っ直ぐ立っていることすらままならなくなったその時、おもむろにはぁ~っと頭上から深い溜め息が落ちてきた。思わずビクッと体が竦む。
「 ……悪かった 」
「…………え?」
一瞬意味がわからずぽかんと顔を上げると、社長はものすごくバツが悪そうな顔で私を見ていた。まるで顔を隠すように口元に手を当てて、
「…お前の言う通りだな。俺にお前のことをどうこういう資格なんてねぇよ。それにお前は何も悪くない」
ほんの少し視線を横にずらしながら、彼は心の底から申し訳なさそうにそう言った。