秘書と野獣
高卒で何の知識も技術もなかった私は、とにかく迷惑をかけないようにと、ただひたすらに仕事に向き合っていた。
当時私にはまだ小学生の妹と高校に入ったばかりの弟がいて、万が一私が職を失えば、頼る身内もいない私達は路頭に迷うことになってしまう。だからどんなことでも無駄にはできないと必死だったのだ。
そんな私が出会ったのが進藤社長だ。
当時彼は別の会社で働く一社員だったけれど、その時からこの人は凄い人になるんだろうなという漠然としたオーラがあった。大きな体と人を惹きつける何かがそう思わせていたのだろう。営業でうちの会社に来る度に、私を見つけるなり「ウサギ、ウサギ」とからかっては豪快に笑っていた。
最初こそ失礼な人だと思っていたけれど、その人柄の虜になるにはそう時間はかからなかった。
やがて独立して会社を立ち上げたと知ったとき、あぁやっぱりかともの凄く納得したのを覚えている。社長になってからも彼はずっと変わることなくうちの会社に足を運び続けていた。
うちは本当に小さな会社だったけれど、彼は立場が変わってもその中身は何一つ変わることはなかった。
来る度に私をからかいながらも可愛がってくれていたことも。