秘書と野獣
その一方で、彼はできたときにはうんと褒めてくれる人でもあった。
よくやったと子どものように無邪気な笑顔でわしゃわしゃと頭を撫でられ、自分の事以上に喜んでくれた。そんな彼にもっと褒められたいと私はがむしゃらに努力を続け、そして頑張った分だけ彼は褒めてくれる。
厳しい人でもあったけれど、それ以上に懐が深く、情に厚い、本当に優しい人だった。
いつしか弟や妹とも接点を持つようになり、彼らも進藤さん進藤さんと本当の兄のように慕うようになっていった。
その流れで私の淡い恋心が明確なものへと変わっていったのは、季節が移りゆくことのようにごくごく自然なことだったのだと思う。
あれから8年____
私も今年で30歳の節目を迎える。
莉緒の言う通り、母が死んでからの私はただひたすらに前だけを向いて生きてきた。姉と言うよりはもうほとんど母親に近かったかもしれない。
時に彼らにとって私は口うるさい存在だったに違いないけど、それでもそれぞれが立派に自立してくれたことを本当に心から誇りに思う。