秘書と野獣
微かに震える手でそっと額に触れる。
あと2年もすれば40になるとはとても思えないほど綺麗な肌。
目を閉じると思っていた以上に睫が長いことに驚く。
今は整髪料できちっと整えられた髪も、本当は驚くほど柔らかいのだと知った。
…最初にして最後となったあの夜に。
あれは神様が私に与えてくれた一夜。
あなたは女なんだよということを気付かせてくれた、神様のちょっとした気まぐれ。
私はその時生まれて初めて女としての喜びを知り、そして身を引き裂かれるような痛みを知った。
体も、そして心も。
確かに私は「女」として愛された。
ううん、彼にとっては愛など存在しない、単なる気まぐれに過ぎなかったのだろう。
けれど、私にとってはあんなこと、彼以外には絶対にできなかったと誓えるから。
だからせめてもの慰めに、自分は女として愛されたのだという思い出として刻んでおくことに決めた。
私の心の中だけに、そっと。
たとえ「 宇佐美華 」として愛されたのではないとしても_____