秘書と野獣
「…ですよね。ちゃんと向き合ってくれてありがとうございます」
「えっ?」
「…何ですか? そんなびっくりするようなこと言いましたか?」
「え、いや、だって…」
物静かな野上君があんなにストレートに求愛してきたことは相当な驚きだった。
だからこそ、こんなにあっさり納得されるのも拍子抜けだし、あるいは説教される覚悟すらしていたというのに。
「ははっ。こんなにあっさり引き下がるなんて、そこまで本気じゃなかったのか? とかチラッと考えてません?」
「えっ!! まっ、まさか。そんなこと…」
「図星ですね」
うぅ゛っ!!
…スンマセン、はい、その通りです。
しょぼーんとわかりやすく項垂れた私に、おもむろにプッと野上君が吹き出した。
わ、笑った。おかあさーーーん、野上君が笑ったよーーー!!
…とつい叫びたくなるくらい、彼の無邪気な笑顔はレアなのだ!
「俺の気持ちを軽く見られるのは不本意ではありますが、正直、最初から玉砕するのはわかりきってたことなので」
「…え?」
「そりゃそうでしょう。あなたにイエスと言わせることができる人がいるとすれば、それはこの世に一人しか存在しない。そうじゃないですか?」
「…っ!」
誤魔化しようのないくらい彼の言葉はストレートだ。
莉緒にも見抜かれていたように、私の気持ちはそんなにわかりやすかったのだろうか?
もしかして、社長にもバレバレなくらいに…
もしそうだとしても、その上で私達には何も生まれなかった。
それが社長の私に対する答えだ。