秘書と野獣
「まぁいいです。外野が何だかんだ言ったところで結局は当事者の問題ですから」
「う、うん?」
「とにかく華さんの俺に対する答えはよくわかりましたから。それで明日行くんですよね? 本当に」
「あ…うん。本当にごめんね? 私がいなくなった後は野上君をはじめ皆さんに多大な迷惑をかけてしまうけど…」
「いいですよ。この一ヶ月の間、あなたは充分過ぎるほどそのための準備をしてきたじゃないですか。俺にフォロー出来ないことがあるとすれば、それは社長のことだけです」
その言葉にドキリとする。
自分がいなくなったと知ったとき、社長は一体どんな反応を見せるのだろうか。
想像したくないけれど…ほんの少し考えるだけで罪悪感で押し潰されそうだ。
「明日は前の社長さんとの会食なんですよね?」
「あ…実はそうなの」
前の社長というのは他でもない、高校卒業後にお世話になったあの社長だ。
進藤社長の下で働くようになってからも、仕事上のお付き合いはもちろん、個人としても定期的に接点を持ち続けていた。
幸か不幸か、最後の仕事はその社長と会うというものだった。
お世話になったにもかかわらず、何も言わずにいなくなることがとてつもなく申し訳ないけれど、新たな地での生活が落ち着いたら、必ずあらためて連絡するつもりでいる。