秘書と野獣

「くっくくく…それでこそお前だよ。じゃあ急で悪いが頼むな」
「はい」

いつものようにポンポンと頭を撫でると社長が颯爽と身を翻す。
触れられた場所からじわじわと熱が広がっていくのを感じるけれど、手元に残された書類に目をやることで煩悩を追い払う。本当はどら焼きなんかなくったって全力で要望に応えるに決まってる。だって、私みたいな人間が秘書なんてやってるのは、たとえ少しだけでも彼の力になりたいって、ただそれだけの…

「ウサギ」
「…はい?」

名前を呼ばれて顔を上げると、てっきり自室に戻っていたとばかり思っていた社長が何故か扉に寄り掛かるようにしてこちらを見ていた。何か言い残したことでもあるのだろうか。不思議そうに首を傾げる私を尚じっと見つめたまま、そうしてその何とも言えない沈黙に息が詰まりそうになった、その時____




「結婚しようと思ってる」





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