秘書と野獣
「急がなきゃっ…!」
アパートに入るなり一直線に部屋の片隅にまとめていた荷物の元へと走る。
昨日までにほとんどのことを済ませておいた部屋は物寂しげで、ここから人がいなくなるということを如実に語っていた。手続き等は全て自分で済ませたけれど、残された荷物の処理などは莉緒に事情を話して拝み倒した。
話を聞いた彼女は当然の如く絶句していたけれど、私の覚悟が本気だと伝わったのか、納得していないながらも最終的には渋々了承してくれた。
赤ちゃんがいる身なのに本当に申し訳ないことこの上ない。
とにかく、全てが落ち着いてからちゃんと恩返しをさせてもらおう。
「長いことお世話になりました…!」
慣れ親しんだ部屋に別れの言葉を告げると、ボストンバッグを手に私はさっき入って来たばかりの玄関を勢いよく開けた。
「 __________ 」
____ところで足が地面にピタリと貼り付いて止まった。