秘書と野獣
「____で? こんな夜中にどこに行くつもりだったんだ? ウサギちゃん」
いい加減私でも自覚してくる。
これは夢でも幻でもなく、正真正銘現実なのだと。
「ど…して…」
「あ? 聞こえねーよ」
「どうして、ですか…? どうして、社長が…」
「質問に質問で返すんじゃねーよ。先に聞いたのは俺だ。まずはお前が答えろよ、ウサギ。こんな時間にどこに行くつもりだった」
「…っ」
____気付いている。
その瞬間、私は自分がどれだけ甘かったのかを全て悟った。
この一ヶ月、必死に画策してきたことは全て無意味だったのだと。
この人はそんなことはとっくにお見通しだった。その上で私はまんまと転がされていただけに過ぎないのだと。
「ごめっ、なさっ…」
「答えになってねぇ」
「ごめんなさいっ…! 黙って、仕事を…やめるつもり、でしたっ…!」
カタカタと震えながら、私はあっさり自分の非を認めた。
否、そうする以外になかった。
「へぇ。仕事をやめて? それでどうするつもりだったんだよ」
「…っ」
全て見抜かれているとわかっていても、どうしてもその先は言えなかった。
面と向かってあなたを捨てて行くつもりでしたなんて、どうしても。
それでも…
「ごめんなさい…社長、行かせて、くださいっ…」
「あ? 何がだよ」
「このまま何も聞かずに、私を行かせてくださいっ…お願いしますっ…!」