秘書と野獣

必死の訴えだった。

身勝手は承知の上だし、恩を仇で返す行為だということもわかっている。
それでも、こうなったのならもう直接お願いする以外にない。何故なんて理由だけは死んでも口にはできないけれど、どうかこんな勝手をする私にクビ宣告をして放り出して欲しい。

気持ちいいほどに潔く。

「……」

その時顔を覆っていた影がフッと消えた。
その気配を感じ恐る恐る視線を上げれば、私を取り囲んでいた手は取り払われ、体一つ分の距離をあけたところに社長が座っていた。表情からは何の感情も読み取れず、ただただ戸惑うばかり。
だけどここまでの流れを見るに、私に心底呆れて勝手にしろと言っているように見えた。

「…本当に、申し訳ありません…。社長には感謝してもしきれないほどお世話になりました。違う形で必ず、必ず恩返ししますから……今日まで、本当にありがとうございました」

両手をついて深々と頭を下げる。

けれどいつまで経っても何の反応も返ってこず、さっさと行けと言われているような沈黙に身勝手な私は寂しさを感じながら、部屋から出て行くべく立ち上がった。



「______えっ?」



次の瞬間、ブチブチブチッという音と共に体に衝撃が走った。それと同時に腕を強く引かれ、一度離れたはずの体は再び柔らかな場所へと引き倒されていた。
何が? と考えるよりも先に、身につけていたスカートが力任せに引き抜かれる。
途中ビリッという音がしたので、破れたのは明白だった。


「なっ…?! 社長っ?! 何を…!」


最後まで言い切る前に今度はストッキングや下着にも手が伸びてくる。
試みた抵抗はあっという間に大きな手に抑えつけられ、瞬く間に私が身につけていたものが引き裂かれてしまった。辛うじて肌に残されているのはもはや何の役目も果たしていない布きれだけ。


そこで初めて自分が裸同然にされたのだと気付いた。

< 49 / 266 >

この作品をシェア

pagetop