秘書と野獣
「なっ…何するんですか! こんなの犯罪ですよ! 社長だからっていくらなんでも許されることと許されないことがあります!!」
羞恥と怒りで真っ赤になりながら叫ぶ。
けれど社長は意に介した様子など全くなく、自分の手に握られたままの布きれを見て何故か楽しそうに笑った。
そうして悪魔のようにこう言ったのだ。
「どうする? これでお前はここから出られなくなったぜ?」
と。
身の危険を感じた私は本能的に逃げようと体を捩ったけれど、仰向けになった体に跨がるようにして乗られているせいで首がほんの少し浮き上がる程度でどうすることもできない。
「あっ! んんっ…!」
次の瞬間両手を抑え込まれると、そのまま思いっきり唇を塞がれた。
一瞬何が起こったか理解できず、けれど、口内に侵入して来た生温かな感触にすぐに現実に引き戻される。
「んんっ、んーーーーーーーっ!!!」
抑え込まれた体はビクともせず、唯一抵抗が示せているのはくぐもった声だけ。
そんな抵抗ごと楽しむかのように、社長は赤子の手を捻るかの如く自由に私の口内を侵していく。逃げ惑う私の舌に自分の舌を絡ませ、歯列をなぞり、唇ごと食べ尽くすかのように覆い被さる。息苦しくて酸素を求めれば、ほんの僅かにできた隙間すらすぐに塞がれてしまう。
「ん、んぅっ…、んっ…!」
どれくらいの時間そうされたかわからないほど口内を侵され続けた私は、ようやく口で息が出来るようになった時には口の周りは唾液でびちょびちょになっていた。同じように酷い有様の社長は、でも何故か嬉しそうにその唾液を指でぬぐって舐めている。
まるで私に見せつけるかのように緩慢な動きで。
それがあの夜を思い起こさせて、自分の全身が赤くなっていくのを感じると共に、込み上げてくる涙を抑えることができなかった。