秘書と野獣


「…なぁウサギ。お前本気で今更俺から離れられると思ってんのか?」


な…んで?
なんで、そんなこと…

できるできないじゃなくて、やるしかないんだから仕方ないじゃない!

ほんの少し二人の間に距離ができると、頭を撫でていた手がそのまま前に回ってきて尚も涙に濡れる頬をそっと撫でる。
まるで恋人にするかのようなその仕草に、私は唇を噛んで俯いた。

「答えろよウサギ。お前は俺から離れて生きていけんのかよ」

「……きて、いけますっ…」
「聞こえねーよ」

「っ、生きて、いけま___んんっ…!」

睨み付けるようにして顔を上げた瞬間唇を塞がれた。逃れようと何度も何度も目の前の胸を叩いたけれど、藻掻けば藻掻くほどキスの密度が増していく。

そうして翻弄されるまま、結局私の体からは力という力が抜けていってしまった。ズルリと崩れ落ちそうになった体がまた力強い腕の中に閉じ込められる。

「ひどいっ…どうして、こんなことっ…!」

「嘘つきなウサギにはお仕置きが必要なんだよ」
「うそ、なんてっ…!」
「じゃあ聞く。なんで俺の元から離れようと思った。しかも俺にだけ何も言わずに逃げるように。俺たちの関係はその程度の希薄なもんだったのかよ」
「ちがっ…!」

「じゃあなんでだよ。今更逃げ場なんてねぇんだ。はっきり言うまでお前はずっとここから出られねーぞ」
「なっ…!」

ふざけないで! そう叫ぼうと思ったけれど、社長の瞳はそれが真実であると雄弁に語っていた。
そして私は知っている。
この人が狙いを定めた獲物は絶対に捕らえられる宿命にあることを。



___かつての私がそうだったように。



「りゆう、なんてっ…」

「ないとは言わせねーぞ。お前に逃げ場はねぇ。全部吐いちまえ」


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