秘書と野獣


酷い。酷い。酷い。

この人は全部わかった上で言わせようとしてるんだ。
そうして面白がって楽しんでるんだ。

私が悪かったのはわかる。
でも、ここまで酷い仕打ちを受けるいわれなんてないのに…!


「お前も大概強情だな。だったら俺が言ってやろうか? お前がどうして逃げようとしたのかを」
「なっ…やめて!」
「なんでだよ。お前が言わないなら俺が言うしかねーだろ?」

「っ、ひどい。ひどいっ! いくら社長でもここまでしなくていいじゃないですか! 裏切ろうとした私を許せないのはわかる。でも一度くらい我儘を許してくれたっていいじゃないですか! 私は社長の足枷になりたくない。傍にいたらあなたに迷惑をかけてしまう。だからいなくなるしかないんですっ!!」

息が切れるほど一気に吐き出しても尚、社長はその答えに納得してはいない。
昔から追い込むときは徹底している人だった。
獰猛な獣のように。

「それだけじゃ足りねーな。全部吐き出せっつっただろ」



その一言に、私の何かがプツリと切れた。



「…っ、だったら全部言いますよ! 社長が言えって言ったんですからね?! 聞いた後で迷惑だ何だって言われても一切知りませんから! えぇえぇ、社長の考えてる通りですよ! 私はあなたのことが好きなんです。好きで好きで、どうしようもないくらいずっと好きなんです! だから幸せになるあなたの傍にいるのなんて耐えられない。あなたの傍で死んだように生きるくらいなら、あなたのいない世界で一人で生きていった方がいい。だから逃げました! バカで愚かだってわかってる。わかってるけど私にはこうすることしかできなかったんです! これで満足ですかっ?!!!」


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