秘書と野獣
「くくくっ…あーあー、ひでぇ顔だなおい。涙に鼻水に…このブッサイク!」
「ひ、ひどっ…!」
この状況下でそれはあんまりすぎる。
止まった涙がまた溢れそうになったところで膝裏から私を抱えこんだ社長は、そのまま自分の足の上に横抱きにする形で私を抱きしめた。
何故そうなるのかわからない私は当然真っ白になる。
「はーーーーー…。ほんっと、お前ほど手のかかる奴はいねぇよ」
「そう思うなら、もうほうっておいてくださいっ…!」
「誰がだよ。そんなお前が可愛くて仕方ねぇっつってんだろ」
どこがだよ?! そうツッコミたくなるのは私だけではないはずだ!
でもそれ以前に、私達がこんなことをしてるのは許されない。
「社長っ…もう許してくださいっ…! 本当に、こういうのは辛いんです。それにっ、奥様になる方にも申し訳なくてっ…だから離してくださっ…!」
「お前はほんっとバカだな」
「…………え。」
あれだけ必死に全てをさらけ出して、これだけ必死に懇願しているのに。
よりにもよってバカとはこれいかに。
けれど見上げた社長の顔には本気でバカだと書かれている。
「いーや、ただのバカじゃねぇ。大バカだ!」
「ひっ、ひどいですっ!! なんで私がバカなんですか!! バカは社長じゃないですか!!」
「なにぃ?」
「だってそうでしょう?! 婚約者がいるくせに、他の女にこっ、こんなことするなんて! いくらこれまで女ったらしだったからって、せめて本命には誠実になったらどうですかっ!! せっかく尊敬してたのに、見損なわせないでっ!」