秘書と野獣
普段なら絶対に飲まないような強めのカクテルを飲みながら、ふとどこからか視線を感じる。不思議に思いながら動かした視線の先で、私の目は驚愕に見開かれた。
_____まさか。
驚き絶句する私を見つめたまま、目の合ったその人物はグラスを片手に立ち上がる。端正な顔にうっすら笑みを浮かべながら、そうして流れるような動作で私の隣のスツールへと腰を下ろした。
ドクンドクンと心臓が張り裂けそうなほどに音をたて、聞こえたらどうしようかと嫌な汗が滲む。
「一緒に飲みませんか?」
「_____え?」
思わぬ一言に顔を上げると、再び目があったその人はニコリと微笑んだ。
もしかして……気付いて、いない?
複雑な心境だった。
私でもこれだけ大胆に変身できるのだという女として喜ばしい感情と、ちょっといつもと違うことをしただけで気付いてもらえないのかという虚無感。
相手に非など全くないというのに、私は心の中で力なく笑うしかなかった。
それと同時に思ったのだ。どうせこの先何の望みもないのならば、この偶然という名の奇跡に乗っかるのもいいんじゃないかと。
「____喜んで」
気が付けば、私も微笑み返してその人を____進藤社長を受け入れていた。