秘書と野獣
欲しいのはあなただけ
「どうした。人を幽霊でも見るような顔して」
「 ……… 」
唖然と口を開いたまま硬直している私を前に、目の前の男はゴロゴロと喉を鳴らすライオンのように上機嫌だ。
まるでドッキリが大成功した後のように、実に愉快そうに。
…嘘だ。そんなことあるはずがない。
だって。だって…!
「お前がなかったことにしようとも絶対に記憶から消せないように、これでもかって俺の全てを刻み込んでやった。忘れたなんて言わせねーぞ」
まさ、か…まさか、この人は____
「い…つ、から、ですか…?」
「あ?」
「いつから、気付いて…」
呆然とその言葉を口にする私に、何を今更とばかりに肩を揺らす。
「決まってんだろ。んなもん最初っからだ」
「なっ…?!」
最初、から…?
最初から私だと気付いていた?
そんなバカな。だったら、だったらどうしてあんな____
「どうして、あんなことっ…」
声が震える。
この先を聞くのが怖くてたまらない。
それでも、僅か1%にも満たない希望を見出したいと願うのは愚かなことなのだろうか。
そんな私の期待と不安が入り交じった心を吹き飛ばすように、迷うことなく社長は即答した。
「好きな女を抱くのに理由なんていらねーだろ」
と。