秘書と野獣
あまりにもあっさりと返ってきた答えに、ますます私は混乱していく。
これはまた夢なのだろうか。
彼が恋しくて恋しくてたまらなくて、長年蓄積した願望が見せる都合のいい幻なのだろうか。
その答えを知りたいのに……怖い。
片想いの時間が長すぎて、こんな時でも私は一歩を踏み出せないでいる。
「ゆ、め…」
「じゃねぇよ」
「まぼろし…」
「じゃねぇっつの! なんだよお前、そんなに夢にしたいのか?」
「っだって! だってっ!! これまでそんな素振りなんて、全然っ…!!」
「だからお前はバカだっつってんだよ。散々お前に対する好意を見せてたぞ、俺は。それを直視しようとしなかったのはお前の方だろうが」
「……え?」
どういうこと…?
彼は一体、何を言って…
「いくら俺だってなぁ、長年家族同然に可愛がってきた女に踏み込むにはそれなりの覚悟がいるんだよ。だってのに、お前はことごとく俺のアプローチをスルーしやがって」
「……へ…?」
「へ? じゃねぇよ! 誰がどう見たって俺が恋しくてしかたねぇって顔してるくせに、いざ俺が踏み込もうとすれば徹底的に壁を作りやがって。お前は目の前にある幸せを自分から遠ざけてたんだよ」
「……」
自分から遠ざけてた?
幸せを…?
目の前に、あった……