秘書と野獣


『ウサギ、今日はフランス料理食いに行くぞ』

「え~っ、そんな高級なもの私にはもったいないです。ラーメンで充分ですよ!」



『俺の部屋に来いよ』

「あはははは、いくら意中の女性にフられたからってそんな血迷ったことするもんじゃないですよ。社長ならすぐにいい人ができますから」



『お前はいい女だな。俺の嫁になるか?』

「まーたそんなことを軽々しく言って。いいですか? いくら社長がいい男でも、世の女性が皆そんなことを言われて喜ぶわけじゃないんですよ? そういう言葉は本当にそう思える人だけに言うものです!」





まさ、か……





「俺が何を言ってもやってもお前は絶対に自分が当事者だとは受け取らない。俺が欲しいと思いながら、端っから自分にはその可能性がないんだと決めつけてたんだよ、お前は」

「……」

「そうやって長年自己暗示をかけてきたお前をその気にさせるのに俺がどれだけ苦労したかわかってんのか? それなのにお前は人の気も知らねぇであんな格好でふらふらバーになんか行きやがって…!」

「えっ…? それじゃあ、もしかして…」
「決まってんだろ。俺があのバーにいたのは偶然でも何でもねぇ。最初からお前を追いかけてったんだよ」

「…!!」

考えもしなかった事実にただただ驚愕するしかない。
あれは偶然でも奇跡でも幻でもなかった。

はじめから、私を追いかけて____?

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