秘書と野獣
「っでも、じゃあどうして最初からそう言ってくれなかったんですか!」
「そりゃあ俺を騙そうと画策したお前を少し懲らしめようと思ってな。っつーか俺としてはお前がさっさと俺が気付いてることに気付くとばかり思ってたんだよ。それなのにお前は気付くどころか泣きそうな顔で笑ってて…。その顔見てたらなんか、嗜虐心っつーのか? がむくむく湧き上がってきて…って、イテッ!!」
最後まで聞くに堪えなくなって目の前の胸を思いっきり叩いた。
何度も、何度も。
「ひどいっ! バカバカバカっ!! あんなに苦しかったのに! あんなに辛かったのにっ!! 全部全部わかっててからかってたなんて酷いですっ!!! …って、だからどうして笑ってるんですかっ!!!」
あの日私がどれだけどん底まで突き落とされたことか。
「わりぃわりぃ。でもお前があんまり可愛いからつい、な」
「そんな言葉で誤魔化されないんだからっ!!」
「誤魔化してなんかねーよ。俺はお前が可愛くて可愛くて仕方がねぇんだよ。それに、あの日俺がお前に言ったこともやったことも全て本心だよ。お前に気付いてることを黙ってた以外は全てが真実だ」
その言葉に振り回していた手から力が抜けていく。
もしかしたら本当の本当はこれは夢なのかもしれない。
そうであって欲しくないと、私は縋るように目の前の服を掴んだ。
その心を見抜いているのか、すぐに大きな手がそれごと強い力で握りしめてくれる。