秘書と野獣
「で? まだ何か聞きたいことはあんのか?」
呆れたように言っていても、その声は泣きたくなるほどに柔らかい。
受け止めてやるから全ての不安や迷いをぶつけろと言っているかのように。
「……ナナ、って……あの時、ナナって言った…」
自分が招いたことだとはいえ、あの一言は今でも悪夢に見るほど私の心を抉ったままだ。
「あぁ、まぁ最初はお前を懲らしめる意味でわざとのってやったけどな。でもホテルに行ってからは一度だって言ってねーぞ」
「う、嘘っ!! だって、あの時確かに…!」
「嘘じゃねーよ。俺が抱いたのは正真正銘 『宇佐美華』 お前だ。もしそう聞こえたんなら、それは偽ったことに対するお前の罪悪感がそう聞かせただけだ」
「____」
罪悪感から、そう思い込んでいただけ…?
「好きな女を抱くのにわざわざ別の名前を呼ぶバカがどこにいる? 俺はあの夜何度もお前の名前を呼んだんだぞ。_____華」
「……っ」
甘く囁かれた確かな自分の名に、ぶるりと全身が震えた。
嘘…でしょう?
本当に愛されているのだと錯覚するほどの甘い時間は、全て最初から私のためだけに…?