秘書と野獣
秘書と野獣
なんだかとてつもなく体がだるい。
自分のものじゃなくなったみたいに、鉛のような体は指一本動かすことですら億劫だ。
それなのに、それがとても尊いものに感じる。
永遠に失いたくない、とてもとても大切な……
「ん……」
ピクッと揺れた瞼がゆっくりと上がっていく。
なんだか今日はこの瞼ですら重く感じる。
どうしてこんなにも体が動かないんだろう…
「___っ」
と、徐々に明瞭になってきた視界に思わず呼吸が止まった。
自分の首の下から伸びる手。それは明らかに自分とは違う筋肉質な腕。ゴツゴツと骨張った指は野性的なのに、見惚れるほどに美しくもある。
今起きたばかりだというのに、ドクンドクンと心臓が止まりそうなほどに騒がしくなってきた。
恐る恐る、まるで見てはいけないものでも盗み見するかのように、ゆっくりと体を反転させていく。
「……!」
そうしてこの目が愛する人を捉えた瞬間、音もなく私の頬を涙が伝った。
ぐっすりと眠る姿は野獣の名前なんて似つかわしくないほどにあどけない。長い睫にかかる前髪を指先で払うと、悔しいくらいに整った顔にそっと触れた。
神様…どうかこれが夢ではありませんように。
もしも、もしも万が一にも夢ならば。
___どうか永遠に覚めないで。
「ぎゃっ?!!!」
指が唇をなぞったその瞬間、突如ガブリとその指が食べられた。
額面通り、ガジガジと歯を立てて。