秘書と野獣
「社長…?」
そんな私など見向きもせずに立ち上がると、社長は無言のままにどこかへと行ってしまった。
もしかして…本気で怒らせてしまったのだろうか。
あれだけたくさんの愛情をもらったにもかかわらず、いまだにどこか現実として受け止めきれていない私に、いい加減うんざりして愛想を尽かしてしまった…のかもしれない。
「…っ、やだっ…まって、待って…!」
追いかけようと必死で体を起こすけれど、自分でもびっくりするほどに力が入らない。両手をついて上半身を持ち上げることですら、生まれたての子鹿のようにぷるぷると震えて実行に移せないでいる。
焦れば焦るほど、余計に体は言うことを聞いてくれない。
「あうっ…!!」
やがてガクンと肘が折れると、そのまま私の顔面は力なくベッドへとダイブした。
「………なにやってんだ? お前」
「…へ?」
聞こえてきた声に目だけ動かすと、いつの間にか下半身にスウェットを履いた社長がすぐそこに戻って来ていた。
そしてひしゃげたカエルのようにベッドに突っ伏す私を心底呆れたように見下ろしている。
……本気で死にたいほどに恥ずかしい。