秘書と野獣
「ったく、相変わらずお前の行動は予想不能で面白すぎんだろ」
「うぅっ…もう何も言わないでください……わぁっ?!」
さめざめとシーツに顔を埋めた体が突如浮き上がった。
あぐらを掻いた社長の体にすっぽりおさめられたのだとわかったのは、後ろから回ってきた手にぎゅうっと抱きしめられてからだ。
「しゃ、しゃちょっ…!」
「だから社長じゃねーっつってんだろうが。ほんっと、人の幸せには誰よりも敏感なくせに、自分の幸せにはとんと無頓着ときたもんだ。おまけに追い詰められりゃあ明後日の方向にぶっとんだ行動に出やがって。ほとほとお前には手を焼くぜ」
「ちょ、ちょ…ちょっと、いきなり何なんですか!」
「散々腹ん中にぶち込まれたくせに、まーだ夢なのかなんて言ってやがるし。今更夢でしたなんてこっちの方がたまったもんじゃねーっつんだよ」
「ななっ…!!??!!」
「おまけに泣き顔は見るも無惨なほどにぶっさいくだし」
いやいやいや、なんかおかしい。
明らかにおかしな方向に行ってますからっ!!!
「けど。そんなお前が俺にとっては最高の女なんだよ」
「………え?」
振り返るよりも先に大きな手が私の左手を掴むと、いつからそこにあったのか、まるで魔法のように社長の手から現れた指輪が、スルスルと私の薬指へと嵌められていく。