秘書と野獣

「…おい、返事は?」
「…っ、ぶえっ…!」
「だからぶっさいくだな…って、いいから返事しろ。俺と結婚すんのか? しねーのか?」

「うぅ゛っ…そんなのっ…、するに決まってますっ…!!」

あれだけ力の入らなかったはずの体が面白いほどに彼へと吸い込まれていく。
自分で動いたからなのか、彼が強く引き寄せたからなのかはわからない。

ううん、きっとどっちもそうなんだ。
私は必死にあなたにしがみついて、あなたはそれ以上の力で受け止めてくれる。まるで強い磁力で引き寄せられたように、ぴたりと収まるこの場所が、ただただ愛おしい。

「早速今日婚姻届出しにいくからな」
「っはいっ………………って、えぇっ??!!!」

明後日な方向からのとんでも発言に嬉し涙も引っ込んだ!

「えぇ?!って。お前今結婚するって言ったじゃねーか」
「い、いや、言いましたよ? 言いました。けど!」
「けどなんだよ。今すぐじゃ嫌だってのか?」
「え、いや、嫌とかそういうことじゃなくて。だって、いくら紙切れ一枚だって、ちゃんと準備しないと…確か証人だって必要ですし」

その言葉に、何故か社長はニヤリとしたり顔を見せる。

「心配すんな。んなもんとっくに記入済みだ」
「………は?!」
「だから、お前の妹にとっくに書いてもらってる」

「……」


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