誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
さぁ、ここから先は夜の時間。
住んでいるマンションの屋上に佇む真琴は、今日も月を眺めていた。
月は見ていて飽きない。
何というか、その1日で形に変化があるわけではないけれど、自然と月に吸い寄せられてしまう。
まぁ、余計なことを無意識に考えてしまうこともあるけれど。
そんな時、空を飛ぶ黒い影が見えた。
〈真琴の旦那!!〉
〈情報持ってきましたよ〜。〉
「本当に悪いね。任せちゃって。」
〈いえいえ!!そんなことは!!〉
〈そ〜だよ。役に立てて嬉しいし〜。〉
この子たちはカラスの兄弟。
この街で出会って最初の動物の話し相手だった子たち。
好奇心旺盛で、動物と話すことが出来る俺を見ても普通に接してくれて、そして懐いてくれた。
だからこうして、たまに依頼主の行動を監視してもらったりすることもある。
鳥なら、空という独壇場で安全だしね。
「で、どんな感じだった?」
〈すぐ近くの大学に通ってる普通の学生ですね!!〉
〈ただ、人間関係は普通じゃないかな〜。
あの人、友達に騙されて色んなことさせられてるみたいだよ〜。
裏取引とか密売とか。〉
騙されている……。
それは少し予想が出来ていた。
依頼してくる人には何種類かパターンがあり、今回はそんな感じだろうと依頼主の話を聞いていたから。
それに……あの依頼主は優しい人。
初めて会ったあの日感じた視線は、あの人の言った通り不安で溢れている瞳だった。
ただ、それと同時に……俺のことを心配しているかのような瞳でもあった気がする。
“君と話していて安心したし……。”
安心、か。
素顔も晒していなかった俺と話して安心したってよく言うよ。
でも、少なからず俺にそう言ってくれた優しい人だから、護らなければ。
「それで、殺しを依頼した人のことは分かった?」
〈その友達ですね!!
依頼主が辞めたくて情報を流すと言ったところの、口封じだと。〉
やはりか。
だから嫌なんだ、そういう奴は。
好きな時にこき使うだけ使って、要らなくなったらすぐ捨てる。
「まるであいつらみたいだな……。」
俺が一番嫌いで永遠に交わることのない奴ら。
俺の一番の敵、殺し屋。
同じだ。人間のクズと殺し屋は。
〈真琴、顔怖いよ〜?〉
「あぁ、大丈夫だよ。」
〈向こうが動く日時は、多分明後日です!
友達の男が電話でそんなこと言ってたんで!〉
「本当にありがとう。毎回悪いね。
これ、お礼として受け取って。」
取り出したのは袋に入った大量の肉。
カラスは基本何でも食べるらしいけど、肉が一番好きらしい。
ちなみに、動物を狩ったりしたわけではなく、たまたま近所のスーパーで安売りだったのを袋詰めした。
〈やった!!ありがとうございます!!〉
〈いえ〜い!!〉
「また、何か見かけたりとかしたらテレパシーで連絡して。」
〈了解っす!!〉
夜空に羽ばたく2匹を見ながら、明後日のことについて考える。
今回も必ず護ってみせる。