誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
「おい、あそこにいる奴誰だよ。」
「ずっと休んでたじゃねぇか。剣城って子だよ。」
「なんでフードしてんだ?しかも猫?」
コソコソコソコソうるさいなぁ。
ちゃんと聞こえてるっつーの。
普通に考えれば、今まで来てなかった奴が急に来れば気になるのは分かる。
分かってるけど!!
なんか、沸騰しきってないお湯みたいな感じで冷静にもなれず怒りきれずみたいな。
言いたい事あるならちゃんと言えばいいのに。
(やっぱり面倒臭いなぁ。)
〈こんなに人が多いのね、学校って。
ちょっとワクワクするわ。〉
(お願いだから、俺から離れないでね。
ビビなんかすぐ踏んづけられちゃうよ。)
〈失礼なっ!!そんなことないわよ!!〉
(はいはい。)
クラスメイトから見たら、俺はどう映っているんだろう。
猫と登校してる変なヤツ?
フードを被ってる変なヤツ?
まぁ、どっちにしろ変なヤツには変わりないか。
そのイメージのまま誰も近づいてこなければいい。
そう思っていたからこそ、ビックリしたのだ。
「ねぇ。名前教えてよー。」
コンタクトをとってくる人がいるなんて思ってもみなかった。
相手に見えない程度に目線を上げると、声をかけてきたのは一言で言うと、"可愛らしい男の子"だった。
ショッキングピンク色のメッシュが入った髪の毛が可愛さを物語っている。
「ねぇー、聞いてる?」
なんでキラキラした瞳でこっちを見てるんだろう。
俺、この人のこと知らないんだけど。
「あ、僕は今泉 楽(イマイズミ ラク)って言うの!
それで、君は?」
「……剣城、真琴(ツルギマコト)。」
「真琴って言うんだぁ!可愛い名前だね!!」
ペコッと頭を下げる。
よく見れば、隣の席みたいだ。
自己紹介は社交辞令のようなもの……だろうか。
「その猫ちゃん可愛いね!!本物?」
〈あら、ありがとう。
あなたも充分可愛いわよ。〉
俺にはビビの言葉が聞こえるけれど、聞こえない今泉には頬ずりをして表現しているビビ。
「うわぁ、本物だー!!
しかも瞳が青色って綺麗だねぇー!!」
このテンションにどうついていけばいいんだろう。
この先がちょっと心配になった。
そして、極めつけは次の一言だった。
「僕、真琴のこと好きになっちゃったんだ!!」
「……は?」
キーンコーンカーンコーン
「おら、HR始めっぞー。さっさと席つけー。」
今泉の方を見ながらフリーズしてしまった。
こいつは今なんて言った?誰が?誰のことを好き?
「お……、おぃ……。」
俺の声はクラスメイトたちの椅子の音で掻き消された。
今泉も何事もなかったかのように座っている。