誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
マンションの扉を開けると、中はまっくらだった。
いつからだろう。
その暗さに慣れてしまったのは。
いつからだろう。
「ただいま」といっても「おかえり」が聞こえてこなくなったのは。
俺は高校から一人暮らしを始めた。
家族は、もう俺しかいないからだ。
リビングの隅にひっそりと立つ1つの写真立てに視線を移す。
父さんと母さん、俺……そして弟が、寄り添いあって微笑みながら写っている。
この世に存在するたった1つの家族写真。
「……ッ、」
両親は、10年前に他界した。
殺し屋の手によって俺の目の前で……。
そして弟はその殺し屋によって攫われた。
まだ見つかったという情報も入っていない。
会いたい。家族に会いたい。
「必ず……必ず私が……ッ、」
せめて弟だけでも見つけ出してみせる。
何年経っていようが、必ず。
俺の目的は2つ。
1つ。"アノ人の意志を実現させること。"
2つ。"両親と弟を奪った殺し屋を見つけること。"
その2つが遂げられる時まで、俺は"俺"として生きる。
「……なんだかなぁ……。」
こんなことを考えてしまうのも、久しぶりに1人だからか。
「……上、行くかな。」
小さい頃から、高い所が好きだった。
自分の視界から建物などが全部消えて、空でいっぱいになる。
"空が近くに見えるから"
小さい頃はそんな子供じみた理由だった。
けど、今は少し違う。
"何もないから"
苦しみや悲しみも、切なさや寂しさも。
空を見てると、全てが無になる。
思考も柵も感情も、そんなもの全てから解放される唯一の時間。
良い意味だとリセットで、悪い意味だと逃げ道。
切り替えてやっていこうと思えることへの期待。
あんな何もないところに自分も行きたいという願望。
だから俺は、無になりたいがために高い所に登る。
この街の中でも結構高いマンションを選んだ。
それも、この景色を見たいだけだったけど。
「……4月だけど、今日は少し暖かい。」
緩やかな風が、身体を撫でる。
あぁ、この感じが好きだ。
今日1日のモヤモヤが風に乗って消えていく。
〈真琴、またココにいたのね。〉
「あぁ、ビビ。
おかえ……り……?」
屋上にやってきたビビの後ろにいたのは、この間black killersから護ったあの依頼主だった。
「……ビビ。どういうこと?
何でその人をココに連れてきた?」
俺は今、マントも仮面も付けていない。
white castleではなく、剣城真琴の姿。
「僕がこの子に頼んだんだ。
君のところに連れて行って欲しいって。」
〈あの日から1週間。
この人、毎日のようにあの電話ボックスの所にいるのよ。
どれだけ遅くなろうが、ずっとね。〉
……だからなんだと言うんだ。
俺には何の関係もない。