誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
「俺の前にこの人を連れてくることがどんな意味か分かってるでしょ?」
〈えぇ。
でも、真琴が大事に守り続けているあのルールは、今は適用されないわよ?
だって、この人は"自分から"真琴の前に現れたんですもの。
あのルールは殺し屋や真琴に対しては有効だけれど、一般人には無効になるわ。〉
確かにあのルールは俺たち専用のルールだ。
でも……。
「この1週間、ずっと考えてた。
君と殺し屋の戦いを見てから、ずっと胸の奥が痛くて……。
君の瞳は戦っている間ずっと悲しそうで苦しそうだったから。」
そんなの嘘だ……。
そうやって人は弱みにつけ込む……ッ。
「だって俺は……仮面を被って……。」
「仮面をつけていても分かるよ。
君の雰囲気は独特だからね。
1週間経っても結局僕の気持ちは変わらなかった。
君の仕事を手伝わせてはくれないか?」
あぁ、高いところにいるのにどうして胸の奥がザワザワするんだろう。
この人をこっちの世界に引きずり込んではいけない……。
「俺の返事も変わらない……。
もう……もう二度と、誰かを傷つけるのは……。」
「誰が傷つくって決めたんだい?
僕は、僕の意志でココにいるんだ。
僕が傷つこうが、君のせいじゃないよ。」
浅はか、だと思う。
この人を突き放せない自分がいることが。
顔つきや背丈、声も全て何一つ同じところなんてないのに。
こんな俺に、優しい言葉をかけてくれるこの人に。
【お前は、優しいよ。】
どこかアノ人の影がチラついて見えるんだ。
〈……もういいんじゃないかしら?
この人間が真琴に対する感情は本物。
そろそろ……踏み出す準備をしなきゃでしょう?〉
踏み出す、準備……。
よく分からない。
今の自分がどんな状態なのか、自分はどこに立っているのか。
俺は依頼主を見つめる。
この人と人間関係を築くことで、それは分かることなのだろうか。
「……分かっ、た……。」
でも、結局最終的に思い浮かんだのは……やっぱりアノ人の影だった。
「え……?ほ、本当に……?」
「……貴方から言い出したことだろう。」
「そ、そうだね……。良かった。
君のこともっと知りたいって思ったんだ。
あ、僕の名前は海棠 由樹(カイドウ ユキ)。
これからよろしく、white castle。」
本当におかしな人だ。
了承した途端笑顔になって。
まるで子供みたい。
「……剣城 真琴。普段はそう呼んで。」
「良い名前だね。分かったよ。」
〈良かったわね。仲間が増えて。
これで真琴も少しは動きやすくなるんじゃない?〉
動きやすく、ねぇ……。
「……あの仕事の日から、俺をハメようとしたんでしょ。」
〈さぁ?何のことかしら?
この人が勝手にここまでついてきたのよ。〉
嘘こけ。黒猫が。
「……細かい説明は明日する。
場所は、ビビに案内させますので。」
〈ちょっ、何で私がパシリにされてるのよ!?〉
俺をハメようとした罰です。
「うん、了解です。」
俺は月を見上げる。
今日は満月。
仲間?が1人増えた今日。
俺たちは。
俺は……これからどうなっていくのでしょうか。
そんな問を月に投げかけたところで、返ってくることがないのは目に見えているというのに。