誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
ゆっくり瞼を開くと、見慣れた天井が見えた。
いつ自分のベッドに戻ったんだろう……と考えたところで、ふんわりといい匂いが漂ってきた。
その匂いにつられてお腹が鳴った。
「……そういえば、朝から何も食べてない……。」
……というか、誰だろう?
耳を澄ますと、キッチンの方からカチャカチャと音がする。
本当ならこの時点で危機感を覚えなきゃいけないのだが、熱が出ているからかあまり深く考えなかった。
料理を作ってくれるなんて、流石の泥棒でもしないだろうし。
横になったまま、ただボーっとしていると部屋のドアが開いた。
「あ、起きたんだね。
お粥作ったんだけど食べる?」
お盆を両手に入ってきたのは由樹さんだった。
「……あ、ありがとうございます。」
起き上がろうとしたら、由樹さんに制された。
「まだ熱があるから駄目だよ。
食べさせてあげるから。ね?」
有無を言わせない口調で、しかも笑顔で言われたら、それは従うしかない。
「……由樹さんって、腹黒いですよね。」
「え?そんなことないよ、多分。」
多分って付けるところが腹黒いんです。
ていうか、食べさせてもらうって……
「ほら、口開けて。」
恥ずかしさと葛藤してみるけど、スプーンに乗った卵入りのお粥……。
「……美味しい、です。」
結論、食欲には勝てなかった。
「ふふっ、良かった。
barのマスターに作り方教えてもらったんだ。」
あの人、何でも作れちゃうのかな。
今度行った時メニューにないの作ってもらいたい……。
でもとりあえず、最初の疑問を口に出してみた。
「……どうしてここに?」
「たまたまだよ……とかカッコイイこと言ってみたいけど、生憎そんなんじゃないんだよね。
燐理から聞いたんだよ。
"術式を使った後は大抵ダウンするから様子見てこい"って。」
燐理のやつ……由樹さんをパシリに使って。
今度会ったら1発殴ってやろう。
「ごめんね。」
「……なんで由樹さんが謝るんですか。」
由樹さんは何もしてないんだから、そんな悲しい顔しないでほしい。
「僕は真琴くんに何もしてあげられていないなって思って。
燐理は真琴くんのことちゃんと分かってる。
でも僕は真琴くんのことまだ殆ど知らない……。
ねえ、僕は何をしてあげられる?」
「……由樹さんはお兄ちゃんみたいですね。」
「お兄ちゃん……?」
私に兄はいなかったけど、そんな感じがする。
優しく全てを包み込んでくれそうで。
それに甘えてしまいそうで。
縋りたくなってしまいそうで。