誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
『あんたのその瞳は、こんな奴が俺を護れるわけがないとバカにしているのか?
それとも、ただ不安なだけか?』
背筋がゾクリとした。
心の中を、見透かされている気がした。
「気に触ったのなら悪い……ッ。
た、ただ……不安というよりか、そのッ、自分が殺されるという状況に、あ、頭がついていかなくて……。」
『……なら、いい。こちらこそ悪かった。
疑うような真似をしてしまった。
話を……聞かせてもらってもいいか?』
結局、僕にはこの仮面の人物のことは何も分からないが、言えることは2つ。
僕が縋る道は護り屋しかないこと。
そして、意外にも……優しそうなこと。
他の奴がこの人にどんな印象を抱くのかは知らないが、少なくとも僕はそう感じた。
経緯を話してる間、整理のついていなかった頭はやはりゴチャゴチャで、伝えたいことがきちんと伝わったかは定かではないが、護り屋はそんな僕の話を一生懸命聞いてくれた……んだと思う。
そんな雰囲気がした。
きっと仮面の奥でも真剣な顔しているんだろうな、と不意に思った。
『流れは理解した。
だが、ここで貴方にも1つ理解しておいてもらわなければならないことがある。』
「な、なに……?」
『殺されると分かっていても、それは結局分かっている"だけ"ということだ。
いつ、誰が、どこで、どんな状況で。
それは決して予告されているものではない。』
なら、護ってもらえないのか……?
僕は、このまま殺されるのを待つのか……?
『だからこそ、貴方に理解しておいてもらいたいことは1つ。
俺を"信頼してほしい。"
貴方を殺させはしない。絶対に。』
仮面の奥から覗くその瞳。
その瞳から、その姿から、僕は何かを感じた。
心の内側から何かを鷲掴みにされたような。
この1人と1匹は、不思議だ。
「わ、分かった……。
この短時間、君と話をしていて何故か安心できたしッ。
よろしく、お願いします……ッ!!」
『依頼、承りました。』
その言葉を聞いて、頭を上げた時には。
もう彼と黒猫はいなかった。
そして僕の手の平には……桜の花びらが舞い降りた。