誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。



『あんたのその瞳は、こんな奴が俺を護れるわけがないとバカにしているのか?
それとも、ただ不安なだけか?』



背筋がゾクリとした。



心の中を、見透かされている気がした。



「気に触ったのなら悪い……ッ。
た、ただ……不安というよりか、そのッ、自分が殺されるという状況に、あ、頭がついていかなくて……。」



『……なら、いい。こちらこそ悪かった。
疑うような真似をしてしまった。
話を……聞かせてもらってもいいか?』



結局、僕にはこの仮面の人物のことは何も分からないが、言えることは2つ。



僕が縋る道は護り屋しかないこと。



そして、意外にも……優しそうなこと。



他の奴がこの人にどんな印象を抱くのかは知らないが、少なくとも僕はそう感じた。



経緯を話してる間、整理のついていなかった頭はやはりゴチャゴチャで、伝えたいことがきちんと伝わったかは定かではないが、護り屋はそんな僕の話を一生懸命聞いてくれた……んだと思う。



そんな雰囲気がした。



きっと仮面の奥でも真剣な顔しているんだろうな、と不意に思った。









『流れは理解した。
だが、ここで貴方にも1つ理解しておいてもらわなければならないことがある。』



「な、なに……?」



『殺されると分かっていても、それは結局分かっている"だけ"ということだ。
いつ、誰が、どこで、どんな状況で。
それは決して予告されているものではない。』



なら、護ってもらえないのか……?



僕は、このまま殺されるのを待つのか……?



『だからこそ、貴方に理解しておいてもらいたいことは1つ。
俺を"信頼してほしい。"
貴方を殺させはしない。絶対に。』



仮面の奥から覗くその瞳。



その瞳から、その姿から、僕は何かを感じた。



心の内側から何かを鷲掴みにされたような。



この1人と1匹は、不思議だ。



「わ、分かった……。
この短時間、君と話をしていて何故か安心できたしッ。
よろしく、お願いします……ッ!!」








『依頼、承りました。』








その言葉を聞いて、頭を上げた時には。



もう彼と黒猫はいなかった。



そして僕の手の平には……桜の花びらが舞い降りた。














< 7 / 182 >

この作品をシェア

pagetop