誰かを護れる、そんな人に私はなりたかった。
入学早々これか……。
「分かっているのか!?
お前は成績トップで入ったこの高校の期待の星なんだ!!
それをなぁ、入学式に出ないわ挨拶はすっぽかすわ……。」
かれこれ1時間は聞いている気がする。
〈真琴がサボるからじゃない。〉
(それはそうなんだけど……。)
朝、登校してくる際に正門の前に立っていた生徒指導の先生にたまたま見つかってしまって、職員室に引き摺られて今この状況。
そろそろ立ってるのしんどい……。
足、疲れる。
「それに、その猫!!!
敷地内に動物を連れてくるな!!」
もうそろそろ切り上げるか。
「あぁ、コレぬいぐるみです。」
〈な……っ!!!!〉
「この子がどうしても俺の学校に来てみたいっていうんで、連れてきちゃったんですよ……。
俺は毎晩この子と一緒に寝ていてですね……、もうこのフワフワさが大好きで……
「あぁあ、もういい!!ぬいぐるみなんだな?分かったから、もう行け!!
HRに遅れないように!!」
ありがとうございます。」
職員会議のために職員室に入ってくる先生と入れ替わりで廊下に出る。
〈何がぬいぐるみよ!!!
私はれっきとした黒猫だわ!!〉
(分かってるよ。
あぁでも言っとかないと、話が終わらなかったんだよ。
それに、この先ビビが学校来れないだろ?)
〈全く……、真琴はいつもそうなんだから。〉
(はいはい。
しっかし、あの先生の顔面白かったな……。
コイツやばい、みたいな瞳で俺のこと見てたな。)
〈真琴はもう先生の間じゃ変人扱いね。〉
(違いない。)
ハハハッと笑いながら廊下を歩く。
すれ違う生徒に訝しげな瞳で見られるのは、きっと肩に乗っているビビのせいだろう。
そんな視線をものともしないビビは、どこか気品がある。
〈あら?教室に行かないの?〉
目ざといなぁ、ビビは。
さりげなく通り過ぎたつもりだったのに。
(面倒臭いからサボる。)
〈初日だっていうのに……。ならどこに行くのよ?〉
(屋上。)
屋上に出ると、今日も穏やかな風が流れていた。
「ここは、静かだ……。」
ここなら、1人になれる。
群がることは嫌いだ。
人の顔色伺って、自分のしたいことも出来ずに過ごす3年間など、何が楽しいのだろう。
クラスにいたって所詮それは同じ。
そんな3年間に、価値なんてない。
少なくとも、俺にはどれも価値のないものだけれど。
俺は1人だ。それを自らが認識している。
今までも。そして、これからも。
〈また何か変なことを考えているの?〉
「そんなビビが思うようなことは何もないよ。」
ビビは俺の相棒。
小さい頃から一番そばで俺を支えてくれた。猫だろ、って思うでしょ?
だけど、実際はそんなこと全然なかった。