無口な彼の愛し方
目の前には、一緒に乗って来た車がある。

充は、サッサッと車へと乗り込む。

離された手には、まだ充の温もりが残っていて切ない。

泣きそうになっているのは、お酒のせいだ。

楽しかったはずの飲み会なのに、今は全然楽しくない。

あたしは車に乗った充を残し、走り出す。


「麗香」


充に名前を呼ばれた気がしたけど、あたしは立ち止まらなかった。

どれくらい走ったかわからない。

ふと視界に入った、公園の中にあるバスケットゴールに吸い込まれるように足が進んだ。

誰かの忘れ物なのか、バスケットゴールの側にはボールも一緒に落ちていた。

手にしていた鞄をベンチに置き、履いていたパンプスも脱ぎ捨てる。

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