無口な彼の愛し方
でも、あの頃は恥ずかしさの方が大きくて、すぐに返事が出来なかった。

中々答えないあたしに、充は不安そうに顔を曇らせる。

返事、しなきゃ。

そう思うのに、恥ずかしくて言葉が出てきてくれない。


「まだ、何も知らないけど」

「はい」

「これから、もっと知りたい」

「あたし、も」


あたし達は、まだお互いのことを何も知らない。

だけど、好きだ。

誰かに、取られたくない。

10代のくせに、そんなことを思っていた。

だから、あたしは精一杯の勇気を出して・・・


「よろしくお願いします」


そう、返事をした。

あたしの言葉にホッとしたように小さな笑みを零した充を、あたしは今もちゃんと覚えている。

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