【完】『そろばん隊士』幕末編
◆1◆
ほとんど耳馴染みのない名前である。
「宮津浪人、岸島芳太郎…か」
「撃剣は、まぁ多少は一刀流の居合が出来るとの由にございますが」
面接官の役回りであった隊士から報告を受けた藤堂平助は、いささか困惑を受けたのか芳しくない顔つきをした。
「しかしながら、岸島芳太郎という者はそろばんが出来ると、申し立て書にはあります」
「どのぐらい出来るか、検分せねばなるまい」
酒井くんを呼べ、と藤堂は平隊士を呼びに遣った。
ついでながら酒井とは勘定方の酒井兵庫のことで、いささか病弱ながら、もとは勘定役の倅だけにそろばんは出来る。
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