【完】『そろばん隊士』幕末編
◆1◆

ほとんど耳馴染みのない名前である。

「宮津浪人、岸島芳太郎…か」

「撃剣は、まぁ多少は一刀流の居合が出来るとの由にございますが」

面接官の役回りであった隊士から報告を受けた藤堂平助は、いささか困惑を受けたのか芳しくない顔つきをした。

「しかしながら、岸島芳太郎という者はそろばんが出来ると、申し立て書にはあります」

「どのぐらい出来るか、検分せねばなるまい」

酒井くんを呼べ、と藤堂は平隊士を呼びに遣った。

ついでながら酒井とは勘定方の酒井兵庫のことで、いささか病弱ながら、もとは勘定役の倅だけにそろばんは出来る。



< 1 / 120 >

この作品をシェア

pagetop