【完】『そろばん隊士』幕末編
◆26◆
服部の左手は脇差を握ったまま、天水桶に当たって落ちた。
「さすがは一刀流の居合」
服部には右手がある。
が。
岸島は抜いたら普通に戦わねばならない。
居合は抜いたあと、撃剣として戦わなければならないのだが、これはあまり得手ではない。
服部の振りの早さは尋常ではない。
岸島は体が崩れた。
もはやこれまでかと思われたとき、
「…っ!」
身代わりのように立ち塞がって服部の刀を受けたのは徳田であった。
「岸島さん、早く!」
二人がかりになった。
間を詰めながら横に動いた。
爪先に、猫がいる。
服部が猫に視線を切った瞬間、
「…!」
原田の槍が服部の腹を突いた。
そこへ徳田が斬りかかった。
が、徳田は跳ね返され袈裟懸けに斬られ倒れた。
間があった隙に岸島は刀をおさめ、再び居合の構えに戻っている。
「岸島くん、次は君だ」
これが服部の最期の言葉となった。
言うが早いか、岸島の刀は素早く服部の首をはねていたからである。