【完】『そろばん隊士』幕末編
ともあれ。
戦局は悪化の一途で、古参の隊長であった井上源三郎がこのとき戦死している。
山崎丞も、深傷を負った。
岸島は顔に流れ弾のかすり傷を負ったぐらいで済んだが、他はほとんど満身創痍である。
「岸島くん」
声に向くと、近藤がいる。
「われらはいったい、何を取り違えたのであろうか」
敗色が濃厚ななか、近藤は思わず赤心を明かしたのかも分からない。
「かつて局長はご公儀あっての新撰組と仰せになられました」
そこが揺らがなければいいのではないか、と岸島は言った。
「もっとも醜いのは、いちいち揺らいで定見も持たずに死んでゆくことではなかろうかと存じます」
「なるほど」
「いかに死ぬかはいかに生きるかであろうかと。そろばんも帳尻が合っておらねば話になりませぬゆえ」
思わず近藤は微笑んだ。