【完】『そろばん隊士』幕末編
◆30◆
翌朝。
岸島は雨上がりの三百坂を出て、上野の広小路まで歩いてみた。
広小路のあちこちには楯の代わりに使われたらしき戸板や、ひっくり返ったままの天水桶、折れ曲がった鋳物の刀に首のない武士の亡骸まで、そのままに放置されている。
そのまま歩くと、
「岸島くんではないか」
声をかける者がある。
振り向くと、小野権之丞であった。
「君は彰義隊ではなかったのか」
「どうやら、原田どのはいたらしいが」
「あぁ、そうだ」
小野は懐から包みを取り出した。